今回はカフカースの日本ではマイナーな民族、2020年10月現在Wikipediaに日本語ページが存在しないラク人の歴史や文化を紹介します!
ラク人(Лакцы)
ラク人はロシア連邦北カフカース、ダゲスタン共和国の基幹民族の1つ。
ロシアでの総人口は178,630人。そのうち約90%の161,300人がダゲスタン共和国に暮らしています。(2010年の統計より)
カフカース系の民族で宗教はイスラム教。
イスラム教は8世紀ごろには流入し、11世紀ごろに定着したと考えられています。イスラム教以前に信じられていた伝統宗教の名残も文化に残っているそうです。
ラク人の歴史
ラク人の正確な起源は明らかになっていませんが、古くからダゲスタンの地に暮らす民族であるということは間違いなさそうです。
6世紀に当時この地を支配したササン朝ペルシャ皇帝の命により、現在も存在するカジ・クムフ(現在のクムフ)という都市が建設され誕生します。この都市は当時よりラク人の中心都市だったと考えられています。
7世紀中盤から150年余り、ラク人が暮らしていた地はアラブ人とハザール人の係争の地となります。ラク人が暮らしていた地はアラブ人の支配下にあることが多く、その際にイスラム教が流入しました。
アラブ人の支配下で、11世紀末にはラク人によるカジ・クムフを中心とした「カジクムフ王国(Казикумухское шамхальство)」が建国されます。
※Шамхальствоの適切な訳語が見つからず、自身でも考えられなかったため、便宜上この記事ではでは「王国」と記載します。
この国はイスラム教を国教としました。これによってラク人の間にイスラム教が定着しました。
1239年、モンゴル帝国がカジクムフ王国に侵攻。カジ・クムフは破壊されモンゴル帝国の支配下に入ります。
ただ、モンゴル帝国の支配下でもカジクムフ王国は存続。モンゴル帝国分裂後はキプチャク・ハン国やイル・ハン国の影響下にありましたが、徐々に自立していったようです。
カジクムフ王国は15世紀に最盛期を迎え、1556年にロシアと国交を樹立。
しかし1642年、長い内戦の結果カジクムフ王国は分裂してしまいます。
1642年のカジクムフ王国の分裂後、ラク人の有力諸侯が集まり「ハルクラフチ」という称号の支配者を決め、「カジクムフ・ハン国(Казикумухское ханство)」が成立し、ラク人は再統一されます。
カジクムフ・ハン国は、オスマン帝国(トルコ)・ペルシャ帝国(イラン)・ロシア帝国の係争地となりました。時にはオスマン帝国の、時にはペルシャ帝国の支配下や影響下に入りながらも国としては存続します。
1817年、ロシアはカフカース全土の征服を目的としたカフカース戦争を始めます。カジクムフ・ハン国もロシアの侵略に対して抗戦します。
結局1820年にカジクムフ・ハン国はロシアに征服され、ラク人はロシアの支配下に入ります。
1877年、ロシア帝国とオスマン帝国による第11次露土戦争が開戦。オスマン帝国は、ロシアに対しての軍事蜂起をするようにラク人を扇動しました。
その結果ラク人はオスマン帝国の扇動に応えて蜂起。ロシア軍のカジ・クムフ要塞を襲撃・占領し、カジクムフ・ハン国の復権を宣言しました。
しかし、この反乱はロシア軍の反撃を受け早い段階で鎮圧されます。反乱の扇動者や中心人物は処刑され、約7000人がロシア帝国の内地に流されました。流刑先の不衛生な環境で大勢が死に、オスマン帝国やペルシャ帝国、イギリスに亡命する人もいました。
ソ連時代初期には、ソ連政府の政策により伝統文化は弾圧されますが、ソ連式の産業や教育は発展。
1944年、チェチェン人が中央アジアに強制移住させられると、空白になった地帯にラク人の一部が強制的に移住させられます。ただ、異常気象の影響もあり、多くの人が亡くなりました。(その後、1994年にようやく正式に帰還することができたようです。)
1941年~1945年の大祖国戦争ではラク人の兵士や将校がソ連軍で大活躍。6人に英雄の称号が与えられました。
その後、ソ連崩壊のときには目立った動きはなく、その後はロシア連邦ダゲスタン共和国の民族として、現在に至ります。
ラク人小話
ラク人はとても親切な人たちだと言われています。以下の伝統にもその親切さややさしさが表れています。
「家にお客さんが来たときは、お客さんを敬いつつおもてなしをしました。もしおもてなしがお客さんに気にいられなかったら、それはラク人にとって恥とみなされたそうです。
誰かが長旅に出ると、家族や近所の人たちはその人の道中の安全や健康を祈りました。そして長旅から帰って来ると、家族だけでなく近所の人たちも出迎え歓迎したそうです。」
現在、ラク人の70%が都市部に暮らしており、上記のような伝統は完全な形ではなくなっていますが、現在も文化の中に根強く残っているそうです。
一度会ってみたい民族ですね。
以上、ラク人の紹介でした!
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